普段、機能面を重視した治療を行っている当医院でも矯正相談に来られる方の多くは、出っ歯や受け口を何とかしたいという見た目の理由で相談にお越しになられます。
白くて綺麗な歯並びは人と会った時に真っ先に見えますし、とても爽やかで好印象ですよね。
人が初対面で会った時に一番その人のイメージに影響する部分が口元の特に歯並びと歯の角度とその色です。
確かに前歯は一番良く見える場所であり、その見た目が大切なのはどなたも異論は無いでしょう。
ところが、実は、前歯はそれ以上に噛み合わせの機能全体を制御している「司令塔」や「ガイド」の様な役割を持っていて、そちらの方がもっと大切な役割とも言えるのです。
ちなみに、歯科の世界では前歯というのは自分の一番前の歯から数えて、3番目の犬歯までのことを指します。ですので、上下合わせると前歯は全部で6本ずつある計算になります。
前歯の機能を司令塔やガイドに例える理由は
・前歯の角度が適度に機能してくれると奥歯への干渉が少なく奥歯への負担が減る
・前歯の角度がその人の食事の際の咀嚼サイクルを制御しているので顎関節への負担を減らしてくれる
からなのです。
少々難しいお話になりますが、以下その理由を分かりやすく説明していきましょう。
これを理解出来れば、そこらの歯医者さんよりあなたのほうが詳しくなれると思いますよ
人の上下の前歯は横から見ますと、図のような関係になります
上顎の前歯と下顎の前歯のなす角度は日本人の平均で43°~50°
前歯の角度は、その方の上顎骨の骨格の基準となる平面AOP(アキシスオルビタール平面)を基準平面としての角度として計測されています。
その際、上顎の前歯と下顎の前歯の関係は、上の歯が下の歯を覆い被さるように重なっています。
その時の上の歯と下の歯の隙間の角度をIOA(Intercoronal Opening Angle)と呼んで評価しています。
このIOAは図の上顎前歯の角度Sと下顎前歯の唇側面とのなす角(上の図の赤い部分)として評価されます。
言わば、上と下の前歯の動きに対する自由域、遊び、とも呼べる値で、日本人正常咬合者のIOAの平均は43°~50°であると言われています。(出典:顎関節機能を考慮した不正咬合治療 佐藤貞雄 他著 東京臨床出版)
この赤い部分の角度が下の図のように大きくなってしまう場合、つまり前歯が出っ歯と呼ばれる、上の前歯の外側への角度が開いた状態となります。
勿論これでは見た目が格好悪くなるということはどなたも異論は無いと思います。
更にこの状態では、本来の前歯のガイダンスとしての機能が全くないのと同じになります。
結果的にモノを噛んだり歯ぎしりをする際に奥歯ばかりがダイレクトに当たる回数が増えてしまうことになります。
その結果、干渉と呼ばれる現象が奥歯に起きます。しかもガイドが無いということは、咀嚼サイクルの動きが制御されていないということになるので、全体としてワイドな顎の開け閉めとなってきます。
矯正治療前 いわゆる開咬状態。開咬に関してはこちらを参照。 前歯のガイダンスが無く、見た目も悪い。
つまり、絶えず奥歯ばかりに力がかかるようになり、しかもワイドな咀嚼サイクルのために横殴りの上下の歯の当たり方が奥歯に集中して行われます。
つまり、かなり強い側方からの衝撃を奥歯は絶えず受け続ける結果となります。
これが日中の食事だけの場合以外に、夜間の歯ぎしりの場合には更に強く無意識に歯をこすり合わせて喰いしばる時間も増えていきますから、奥歯への負担は相当なものなのがお分かり頂けるでしょう。
このようにして、次第に奥歯がしみる現象(知覚過敏)が起き、エナメル質のクラックや歯根破折、そして外傷性の歯周病でぐらぐらになってしまい、最悪の場合は抜歯といった歯への悪影響を及ぼし始めます。
それに前後して、顎関節への負担も蓄積し、様々な顎関節症状も出てくる場合も多いのです。
矯正治療後→ 前歯のガイダンスが確立され、見た目も良くなった。
次回の院長コラムでその他の前歯の機能が果たせていない症例をご紹介します。